KDDI、イー・アクセス、ソフトバンクがWiMAXの周波数獲得へ動く(2006年1月)

NTTドコモも参戦し、混戦へ(島田雄貴)

無線ブロードバンド用の周波数として、総務省から割り当てられる2.5GHz帯はこれまで、第3世代携帯電話(3G)システムの予約帯域として留保されてきた。ところが日本ではほかの無線通信システムが2.5GHz帯を利用しており、3Gシステム用に十分な帯域を確保できない。さらに、ここ1~2年の間に、3Gシステム以外にも高速なデータ通信を安価に実現する技術が次々と登場。日本での導入を訴える声が増えていた。ジャーナリスト島田雄貴がレポートします。

総務省が無線技術を研究

状況の変化を感じ取った総務省は、新たな無線技術の導入の検討に向け、研究会の場で検討に着手。「ユーザーが場面に応じて最適な無線技術を利用できるようにした方が、周波数の利用効率を向上できる」(総務省幹部)との方針を示した。

iBurst、Flash-OFDM、次世代PHS
4種類の無線ブロードバンド

無線ブロードバンド技術には現状、多数の方式が存在する。これらの中から「国際的にオープンな仕様であり、多数のメーカーが製品開発に賛同する意向を示していること」(総務省幹部)などを条件として絞り込んだ結果、最終報告書には(1)→WiMAX、(2)→iBurst、(3)→Flash-OFDM、(4)→次世代PHS――の4種類の無線ブロードバンド技術が記載された。

有力候補はワイマックス

中でも、多くの事業者が採用を検討しているのがWiMAX。最大の理由は、他の技術よりも賛同するメーカーが多いからだ。WiMAX(ワイマックス)は最大75Mビット/秒の通信が可能で、固定向けとモバイル向けの2種類の仕様がある。このうち、2.5GHz帯ではモバイル向けの仕様の「IEEE802.16e」の導入が検討されている。2005年12月に、仕様策定作業が完了した。

イー・アクセスもWiMAXを第一に

WiMAXの業界団体であるWiMAXフォーラムには、いまや300社を超す企業や団体が名を連ねる。「国際的な標準化動向やWiMAXに賛同するメーカーを見ても、他の技術を圧倒する。当社はWiMAXの導入を第一に考える」(イー・アクセスの諸橋氏)。

場所やデータ量に応じてサービスを自動切り替え
ビル内では無線LAN

事業者各社は、携帯電話サービスの補完としてWiMAXを利用する計画をアピールする。携帯電話サービスで全国エリアをカバーしつつ、トラフィックが集中する都市部ではWiMAXサービスを提供するものだ。ビル内などさらに小さいエリアでは無線LANサービスを提供し、場所やデータ量に応じて柔軟にサービスを分ける。これらのシステム間は自動的に切り替わる。

WiMAXの可能性
無線通信のビジネスモデルを変える

ただし、理由はそれだけではない。WiMAXは、無線通信のビジネスモデルを大きく変える潜在能力を秘めているからだ。特に、携帯電話事業者がこれまで展開していた、「携帯電話サービスと一体化した端末だけを販売する」というモデルが継続できなくなる可能性が高い。

インテルが対応製品も拡大

例えば米インテルのショーン・マローニ主席副社長は「2007年~2008年にはWiMAX機能を内蔵したモバイル端末向けのチップを積んだ商用製品の準備が整う」と明言している。今後WiMAXの対応製品が携帯電話事業者の思惑とは関係なく広まっていくのは必至。これまでの携帯電話機とは異なってメーカーは自由にWiMAX端末を開発できるようになり、ユーザーもさまざまな製品を選べる。変化に乗り遅れまいとする事業者の思惑も、WiMAX用の周波数獲得競争の背後に見え隠れする。

NTTドコモがWiMAXに“くら替え”

ソフトバンクやイー・アクセスと対決へ

KDDI、イー・アクセス、ソフトバンクなどがWiMAX用の周波数獲得に向け次々と名乗りを上げる中、関係者を驚かせたのがNTTドコモの動き。これまでNTTドコモは2.5GHz帯には携帯電話システムの高度化システムである「→スーパー3G」導入を推進する立場をとり、沈黙を守ってきた。だが、ここに来てWiMAXの導入に方針を変更した。

水面下で韓国の視察

NTTドコモは公式にはまだ意思表示をしていないが、ある幹部は「総務省が国の方針として2.5GHz帯に無線ブロードバンドに割り当てる方針を固めた以上、3Gに固執はしない」と明かす。水面下ではWiMAXの開発で先行する韓国の視察やWiMAXの研究などを続けている。

もともとは「W-CDMA」派

もともとNTTドコモは→「W-CDMA」の標準化作業の中心メンバーとして名を連ねていた経緯から、3G用の予約帯域にWiMAXなどの別の技術を導入することに反対していた。しかし、情勢の変化を重く見て方針を変えたようだ。

NTTドコモに一本化
NTT東日本、西日本は撤退

NTTグループでは、NTT西日本に加えてNTT東日本など、NTTドコモ以外の事業者がWiMAXの導入に意欲を見せていたが、「NTTグループとして無線をやるのはドコモ、という方針が持ち株会社から改めて表明された」(NTTグループ関係者)。今回はNTTドコモに一本化することになる模様だ。

KDDIは標準作業に参加して実績作り

携帯電話でNTTドコモのライバルであるKDDIは、WiMAXの仕様策定にも携わり、標準化に貢献している。WiMAXが導入されることが決まったあかつきには、同技術の第一人者としての地位を積極的にアピールし、周波数の獲得を有利に進める思惑だ。

KDDIも実用化を目指す
スプリントや韓国KTと協力

ただしKDDIの渡辺本部長は、現状のWiMAXのままでは通信サービスの技術として使い物にならないと言う。「例えば、複数の無線技術をまたぐためのハンドオーバーの実現や、通信品質の確保のためには、数多くの規定が必要」。WiMAXの実用化を目指して、KDDIはWiMAXフォーラムのネットワーク部分の標準化作業に参加。米スプリント・ネクステルや韓国KTなどの通信事業者と作業を続けている。

国内でも実験開始
トリーム映像を移動中に流す

国内では2005年6月から大阪府内でWiMAXの実験を開始した。ストリーム映像を移動中に流す実験や、車内走行中の無線基地局間のハンドオーバー、テレビ電話などを流す実験などを進めている。

「帯域不足を補う」携帯新規参入組

既存の携帯電話事業者と同様に、ソフトバンクとイー・アクセスもWiMAXの導入を狙っている。両社は、2007年に開始する1.7GHz帯での携帯電話と一体化したデータ通信サービスを視野に入れている。

ソフトバンクとイー・アクセスがWiMAX導入を目指す理由

ソフトバンクとイー・アクセスがWiMAX用の周波数獲得を目指すのは、携帯電話用の周波数帯域を補う必要に迫られているから。データ通信のトラフィックを2.5GHz帯で吸収する狙いがある。というのは、1.7GHz帯を使う携帯電話サービスは開始当初、両社とも5MHz幅しか使えないことが決まっている。都市部などトラフィックが集中する地域で帯域が不足するのは火を見るより明らかだ。WiMAXの導入で、何とかこうした事態を避けようとしている。

ソフトバンクはさいたま市で実験開始

ソフトバンクは携帯電話参入が決まる1カ月前の2005年10月に、WiMAXの実験局免許を取得。携帯電話の実証実験を続けている埼玉県さいたま市で、カナダのノーテルや韓国LG電子と共同で実証実験を始めている。技術責任者には→ADSL立ち上げの中核メンバーであるソフトバンクBBの筒井多圭志取締役CTO(最高技術責任者)を据えた。

イー・アクセスは推進室を設置

イー・アクセスも、2005年12月1日に、その名も「WiMAX推進室」を設置。2.5GHz帯の周波数獲得に本腰を入れ始めた。「千本倖生会長からじきじきに辞令を受け取り、必ず獲得するように厳命を受けた」(イー・アクセスの諸橋氏)。早期に実証実験を始める計画だ。

ウィルコムやライブドアも名乗り

活気付くWiMAX陣営に対して、ウィルコムとライブドアは別の方式で2.5GHz帯参入を目指している。

次世代PHSを推進

ウィルコムは、「日本発の技術」である次世代PHSの特異性を強調する。「日本で生まれたPHSシステムはアジアを中心に、世界各国で採用されている実績がある。日本発の技術を発展させる意味でも、次世代PHSシステムの導入は重要なのではないか」(喜久川政樹・執行役員経営企画本部長)。

アダプティクスと機器開発

ウィルコムは次世代PHSシステムの採用に向け、具体的な行動に出た。2005年11月に次世代PHSシステムの実証実験のための予備免許を総務省から取得。並行して技術仕様の策定に入り、「データ通信速度は20Mビット/秒以上」など全体像を徐々に明確にしている。米国のメーカーであるアダプティクスと共同で機器開発に着手し、実用化に向け本格的に動き出した。

無線LANサービス「Livedoor Wireless」

一方、ライブドアは京セラとともにiBurstの獲得を目指す。狙いは2005年12月に開始した無線LANサービス「livedoor Wireless」の補完。「地方エリアを中心に、livedoor Wirelessではカバーしきれないエリアでの採用を検討している」(照井知基・ネットワーク事業本部本部長兼執行役員上級副社長)。

「できるだけ早期に実用化したい」総務省

多くの事業者が思惑を巡らす中、2006年1月から総務省は割り当てに向けた作業に着手する。

情報通信審議会に諮問へ

早ければ1月内に、複数の無線ブロードバンドの技術検討を、総務大臣の諮問機関である情報通信審議会に諮る。情報通信審議会は作業班を設置し、個別の技術について、隣接する周波数との干渉などを詳細に調査する。

悩む総務省

その先の焦点は、二つある。一つは、どの技術を採用し、何社に割り当てるかという点だ。総務省は情報通信審議会の答申を基に、導入する技術や割り当てる事業者の数を決める。今のところWiMAXを推進する事業者が多いものの、他方式での参入を狙う事業者も複数ある。「どの基準で技術を選ぶべきか。今から本当に悩ましい」と総務省幹部は困惑の色を隠さない。

周波数幅は約70MHz?

割り当てる事業者数も悩みのタネだ。割り当て可能な周波数幅は、今のところ約70MHz。隣接する周波数帯との干渉を避けるガードバンドなどを考慮すると、「多くても3社になりそう」との声が関係者の間では大半を占める。

電波の干渉を検証へ

導入技術と事業者の数が決まると、次の焦点は「どの事業者に割り当てるのか」に移る。事業者にとっては、採用する技術と具体的な割り当て事業者の2段階で振り落とされる可能性があり、いやが上にも、選択基準に注目が集まる。現時点では、総務省内は全くの白紙という。「検討する技術の種類が多ければ、それだけ時間がかかる。早期に実用化したいが、他システムへの影響を考えて、干渉などの検証は慎重に行う」(総務省幹部)。

韓国はWiBro実用化へ

だが、悠長にことを運べない事情もある。隣を見れば韓国が2006年4月にも→WiBroの導入に向け一足早く実用化に踏み込むなど、世界でも無線ブロードバンド採用の動きは確実に広がっている。モバイルの先進国を自負する日本が今後も世界のトップを走り続けるためには、無線ブロードバンド・サービスの早期の実現が必要だ。

総務省の力量が問われる2006年

新たな競争を呼び込むためにも、総務省は事業者間の綱引きなどの難題をクリアして、早期にサービスを始められるように環境を整える必要がある。2006年は総務省の力量が問われる1年となることは間違いない。

用語解説

通信アナリストの島田雄貴が、WiMAXに関する用語解説をまとめました。

ワイヤレスブロードバンド推進研究会

2004年11月に総務省が通信事業者や機器メーカー、シンクタンク、学者など幅広い分野の識者を集め、無線ブロードバンド通信の在り方を議論するために発足させた研究会。

IMT-2000プランバンド

IMT-2000はITUが定めた第3世代移動通信システム。プランバンドとは同システムに割り当てることを計画されている周波数帯。

WiMAX

Worldwide Interoperability for Microwave Access。固定無線アクセス方式「BWA」(broadband wireless access)の標準規格である「IEEE 802.16-2004」と、ユーザーが高速移動中も通信を継続できる機能を備えた高速な広域無線通信方式「IEEE 802.16e」の2種類がある。事業者各社が2.5GHz帯での実用化を目指しているのは、IEEE 802.16eの方である。

iBurst

米アレイコムが開発した通信方式。PHSと似た通信方式で、最大データ通信速度1Mビット/秒の規格。

Flash-OFDM

OFDM(orthogonal frequency division multiplexing)から派生した無線通信技術。2005年8月に米クアルコムが買収を発表した、米フラリオン・テクノロジーズが開発した。

次世代PHS

ウィルコムが開発中の文字通り次世代のPHS技術。最大データ通信速度で20Mビット/秒程度を想定している。

スーパー3G

NTTドコモが掲げる、第3世代携帯電話サービスの進化した通信サービス。30Mビット/秒程度のデータ通信速度を実現するなどの構想がある。「3.9G」とも呼ばれる。

W-CDMA

広帯域符号分割多元接続。一般にいうW-CDMAは、第3世代移動通信システム「IMT-2000」での無線通信方式の候補案として日本が1998年6月にITUへ提出した仕様を指す。NTTドコモとボーダフォンが、この方式を使って第3世代携帯電話サービスを提供中。

ADSL

asymmetric digital subscriber line。既設の電話用銅線ケーブルを使う高速ディジタル伝送方式xDSLの中で、最も代表的な伝送技術。

WiBro

Wireless Broadband。WiMAX(IEEE 802. 16e)に韓国独自の規格を盛り込んだ通信技術。

イー・アクセス、DSL回線を速度1.5メガビットに(2006年1月~島田雄貴)

イー・アクセス(東京都港区虎ノ門3-8-21、千本倖生社長)のDSL回線を速度1.5メガビット化について、通信ジャーナリストの島田雄貴が解説します。

東京めたりっくも追随

イー・アクセス(東京都港区虎ノ門3-8-21、千本倖生社長)は、2月1日からデジタル加入者線(DSL)提供回線の最大速度を下りで毎秒1・5メガビット(現在は同640キロビット)、上りで同512キロビット(同320キロビット)にそれぞれ高速化させる。NTT東西地域会社がDSL本サービスを同1・5メガビットで始めたのに対抗するのと、顧客の高速通信のニーズに沿ったもの。東京めたりっく通信も同様に回線速度の引き上げを計画しており、DSLの速度は同1・5メガビットが“標準”になってきた。

イー・アクセスの速度アップはDSL事業者の設備とNTT東西の局舎をつなぐ部分の、回線設備増強によって達成するもの。すでに契約しているユーザーにとって、新たな負担は発生しない。高速化することで動画像やデータ送信がスムーズにできる。

DSL事業者は回線の安定性能を保つために、実験レベルでは同2メガビットなどの高速性能を達成しているものの、供給レベルでは送信速度を同640キロビットにとどめていた。1・5メガビットにすると通信途中に回線が切れる心配があるほか、動画像送信が中心の高速の1・5メガビット需要が「時期尚早」と判断していたのが理由だ。

しかしNTT東西が1・5メガビットでサービスを始め、イー・アクセスや東京めたりっくの主要大手も追随することで、高速DSL時代が幕を開けるとともに既存の640キロビットでは値下げを図るなど新たな料金競争が始まりそうだ。

アメリカの地域経済の盛衰に異変(1988年~島田雄貴)

1980年代のアメリカの通信関連業界の経済動向について、通信ジャーナリストの島田雄貴が解説します。

東西両沿岸地域にかげり

アメリカの地域経済の盛衰に異変が生じ始めている。まず第1は、コンピュータを中心とするハイテク産業の発展により、かつての不振を脱して1980年代に「奇跡」と呼ばれる復活を見せたマサチューセッツ州経済がふたたび暗転したことである。

コンピュータメーカーの業績が悪化

これは内需の低迷でデジタル・イクイップメント、データ・ゼネラル等コンピュータメーカーの業績が悪化し、人員合理化旋風が吹き荒れ、また国防予算削減ムードの余波でGEの航空機エンジン工場などの防衛産業が不振に陥ったからである。

マサチューセッツ州、デュカキス知事

この結果、失業率の上昇、州財政の破綻を招き、「奇跡」を背景に大統領選挙に打って出たデュカキス知事も、「奇跡は終わった」と発言せざるをえなくなった。

フロストベルトからサンベルト地帯へ

第2は、サンベルト地帯の成長テンポが、まだら模様となってきた点である。

ノースカロライナ州、メキシコ湾岸、テネシー、アリゾナ、カリフォルニァ州

かつてアメリカの工業的中心地はデトロイトのある北東部といわれたが、1970年代前半頃から、ノースカロライナ州からメキシコ湾岸、さらにテネシー、アリゾナ、カリフォルニァ州に至る温暖地域に、石油、電子工業などの高成長産業が集中した。そのため、フロストベルトからサンベルト地帯への産業民族大移動ともてはやされたものである。たしかにサンベルトは他の地域に比して人口、所得の伸びが高く、議員定数の変化にもつながり、政治的な重要性を増すようになった。

航空・宇宙、電子機械等、軍事関連産業の低迷

とくにカリフォルニア州など西部地域は、1980年代に顕著となった国防支出の増加により、航空・宇宙、電子機械等、軍事関連産業の拡大でうるおっていたが、マサチューセッツ州同様、国防予算の緊縮で成長率が鈍ってきた。 この結果、アメリカ大陸の東と西の両岸地域の景気が沈み始め、1980年代を通して続いてきた東西両沿岸地域の高成長、内陸地帯のシェアダウンという状況は崩れている。 1950年代には、サンベルトおよび西部地域のほとんどすべての州で、全米平均の伸びを上回る所得増を記録したが、1980~1987年には、平均以上は上記地域24州のうち6州にすぎなくなった。

アメリカ経営者の行動はどう変わるか(1990年~島田雄貴)

米企業の問題点

証券、自動車、コンピュータなどの業界で人員削減計画

企業寿命は長くない。
アメリカの景気は、1982年2月をボトムに、すでに86カ月余りの長期拡大が続いているが、昨今、ドル高による輸出の伸び悩み、内需の低迷により、ソフト・ランディング成功か不況かの微妙な段階を迎えている。
すくなくとも企業収益の悪化は避けられず、すでに証券、自動車、コンピュータなどの業界で人員削減計画が進んでいる。
不振の一因として、日本の技術力、資金力に対する敗退が指摘されている。

短期利益重視の企業行動は是正されるべき
日米構造協議

アメリカの経営目標には、株主のキャピタルゲイン重視などの特徴がある。
1989年10月、ニューヨーク株式は暴落したが、その原因はUALの買収に伴う銀行融資の不調といった技術的問題にとどまらず、M&Aが盛んななかで、アメリカ企業の質の悪化に根ざしている。

1990年4月の中間報告を目指してすでに3回の協議を重ねている日米構造協議では、両国が相互に改善要求項目をぶつけ合っているが、わが国の対米要求項目の1つに、短期利益重視の企業行動是正が取り上げられている。
もちろん、企業業績は短期的には景気変動のインパクトをもろに受けるが、この短期的動きのなかに長期的トレンドをいかに読み取るかがポイントとなる。

企業寿命は長くない

エクセレント・カンパニー

かつて日米両国でベストセラーとなった『エクセレント・カンパニー』(ピーターズ、ウォーターマン共著)で取り上げられた企業のいくつかが、その後の分析で「エクセレンシー」を失ったと話題を呼んだが、皮肉にもこの著作は、「企業寿命は長くない」という命題を再認識させることになった。

成長性と変身度

ところで短期変動のなかで長期的な動さを見据え、優良企業としてのポジションを確保するには、第一に産業の成長性、第二に企業の変身度がポイントとなる。
技術と市場の変化という環境変化に加えて、企業変身という市場ニーズが、アメリカにおいてM&Aをはやらせた背景である。

『フォーチュン』誌企業番付の「500社リスト」

有名な『フォーチュン』誌企業番付でも、大企業同士の合併で売上げを伸ばして上位に進出する例が毎年のように見られるが、裏返せば被合併・吸収企業は「500社リスト」から消滅する悲哀を味わっているのである。

1970年代からアメリカ製造業の国際競争力低下(1987年~島田雄貴)

アメリカ製造業の生産性低迷と国際競争力低下が問題視

1986年3月『ビジネス・ウィーク』誌
ホロー・コーポレーション(企業の空洞化)

1980年代のレーガノミックスの時期に、ドル高、高金利が続き、アメリカ製造業の生産性低迷と国際競争力低下が問題視された。1986年のアメリカ大統領経済報告書は、デインダストリアライゼーション(産業力後退)に関する分析を行い、また1986年3月『ビジネス・ウィーク』誌が「ホロー・コーポレーション(企業の空洞化)」という特集記事を組み、アメリカ製造業の問題点を指摘している。

先端技術産業分野でも衰退が

1980年代のドル高が影響

しかし、アメリカ製造業の競争力低下は1970年代にさかのぼる。しかも、たとえば日本、西ドイツと比較すればわかることだが、これら2カ国では成熟産業でも生産技術の進歩が見ちれ、相対的に競争力の強化が進んだために、アメリカのように急速な衰退は現われなかったのである。1970年代に始まったアメリカ製造業の国際競争力の低下は、成熟産業にとどまらず、1980年代のドル高のもとで先端技術産業分野にまで及び、輸出市場シェアを喪失、国内市場は輸入製品に侵食された。 他方で、製造業のヒト・カネといった経営資源は順次第3次産業、とりわけ、サービス業にシフトしていったのである。

コンピュータのシステムデザイン、ソフトウェアは優位

宇宙・航空機、医薬品も優位

もちろん、以上の指摘が製造業全体にあてはまるわけではない。 宇宙・航空機、医薬品、コンピュータのシステムデザインやソフトウェアなど、アメリカが圧倒的な競争力を維持している分野がある。個人の創造性や資本、資源力がものをいう装置産業でのアメリカ産業の優位性はいぜん続いているのである。

製造業弱体化の原因とは

アメリカ流の量産型生産システムと生産技術の低下
マイクロエレクトロニクス革命

さて、製造業弱体化の原因としては、経営者が短期的な利益追求に走るあまり、長期的視野に立った設備の増強、研究開発に力が入らなかった、労使間の対立が深刻化しそれが経営の効率化を妨げた、等々があるが、根本的にはアメリカ流の量産型生産システムと、それを支える生産技術の低下であるといえよう。そして、もっと大きな問題点は、この生産技術がいま、マイクロエレクトロニクス革命のなかで、ロボット、コンピュータを駆使した柔軟な多品種少量生産を軸としたシステムへと根本的な変革を遂げようとしていることであり、かつその転換によってグローバル・レベルの市場競争が激化し始めたことである。

アメリカ製造業の空洞化

製造業からサービス部門へ

また、マクロ・レベルについて見ると、アメリカ製造業の空洞化が問題にされたのは、第1に、製造業からサービス部門への産業構造の移行が、生産性の低下、さらには経済成長率の低下をもたらす(サービス部門は製造業に比べて所得水準が低く、生産性向上も困難)という点であり、第2に、製造業の生産基地が海外に移転し、国内生産が縮小、輸入が増大し、貿易収支、経常収支の赤字につながる、という点であった。

アメリカ内陸部も「まだら模様」に(1991年~島田雄貴)

アメリカ内陸部に有力企業が移転

ダラス・フォートワース(テキサス州)、アトランタ(ジョージア州)、カンザスシティ(ミズーリ州、カンザス州)
米有力誌『フォーチュン』

低迷気味のアメリカ東西両沿岸に代わって、このところ注目され始めたのが内陸部である。米有力誌『フォーチュン』は、将来のビジネス有望地として、ダラス・フォートワース(テキサス州)、アトランタ(ジョージア州)、カンザスシティ(ミズーリ、カンザス両州にまたがる)を選んだ。すでに有力企業本社がニューヨークを脱出、ダラスなどに移転した例もある。

地域間における経済格差が発生

ところで地域間における経済格差は、各地域の産業構造と産業の盛衰によって生ずる。この産業の盛衰をもたらす具体的要因は、国防支出の動向や州レベルの産業政策のほか、石油価格の動向、農産品市況の変動によって左右される。

テキサス州

たとえば石油依存の強いテキサス州を中心とする南西部は、1970年代後半から1980年代の石油ブームには、1人当り個人所得も増加したが、1982年以降の石油価格下落により石油産業が不況に陥り、所得減をもたらした。また農業依存度の高い平原部諸州では、1980年代に農業が不振に転じて以来、1人当り所得の下落に見舞われている。